連休明けの10 月15 日。茨城県北ガストロノミープロジェクトは、先進事例を学ぶべく、新潟県南魚沼市の事業者を中心に、その雪国の食の魅力を永久に守り受け継いでいきたいという想いから生まれた、「雪国A 級グルメ」のお店や宿泊施設、加工事業者や地元の生産者さん等を巡る勉強会ツアーを実施しました。

※「雪国A 級グルメ」は茨城県北ガストロノミープロジェクトのプロデュースも依頼している、雑誌「自遊人」編集長・岩佐十良(いわさ とおる)氏を中心に取り組まれてきた活動です。

初日は小雨降る空模様でしたが、メンバーを乗せたバスは最初の訪問先である蕎麦屋「八海生そば 宮野屋(みやのや)」さんへ向かいます。宮野屋さんは、雪国A 級グルメ加盟店。そちらでランチをいただくところから、今回の勉強会はスタートです!

道中では岩佐氏がバスガイドのごとく、南魚沼の歴史と自然、そしてそこで営む人たちについてご紹介。紹介を聞きながら質問なども生まれ、茨城を朝早く出発して新潟まで来たメンバーのテンションも次第に高まっていきました。

市街地からだんだんと山間へ。杉林が青々と茂る中、右手に神社が見えてきたその先が宮野屋さんです。神社は八海山尊神社と言い、毎年秋には「八海山尊神社大火渡大祭」がこちらで行われるそうです。そんな信仰深い神社の近くにある蕎麦屋ということで、雰囲気も含めてメンバーのテンションはさらに上がっていきます。

店内に入ると、10 月中頃にも関らずストーブが焚かれており、心身ともに暖かく出迎えていただきました。一般のお客様は1 階で、会食等大勢の場合は2階で食べられるようです。我々は2階に案内されました。

着いてすぐにお茶と共にお店近くで採れる胡桃が提供されました。自分で胡桃をほじって食べるのも面白い。

その後、山菜盛合せが。またたび、タラの芽、こごみ、ゼンマイ、ワラビ、ミツバアケビのツル、ウワミズザクラ、などなど…。こちらはすべて家族で山に入って採ったものを冷凍保存などして提供されているそうです。ミツバアケビのツルは、関東では苦くて食べられませんが、雪国では苦みが少ないため、このように食べることができるとか。雪国の食文化を体感できる料理です。


そして、いよいよもり蕎麦の登場。…と思いきや、白っぽい汁に入った温かいお蕎麦が出てきました。この汁は、蕎麦湯のようです。ここで岩佐氏から説明。「今回は皆さんに蕎麦を何の味付けもなく、蕎麦湯のみでいただいてもらおうと思います」。なんでも、岩佐氏と店主が相談していた際に思いついたということです。そばつゆではない温かいつゆで食べるお蕎麦といえば、「けんちんそば」は茨城県北地域でおなじみのご当地メニュー。こちらの蕎麦湯そばは宮野屋名物になるのでしょうか。味付けはないので、本当にそば本来の味が楽しめます。


続きまして、冷たいお蕎麦。せいろでいただきます。何度か訪れている自遊人スタッフは、「この前食べた時よりもおいしい」と言っていました。店主の腕が短期間で上達している、ということでしょうか。


一通り蕎麦をいただいた後、若き店主・米山俊介(よねやま しゅんすけ)さんにお越しいただき、今日提供いただいたメニューや店を継いだ経緯、食材に対しての考え方などを語っていただきました。「日本一の蕎麦屋になりたい」という米山さんは、地元産の蕎麦粉にこだわり、使用しているのは2~30㎞圏内で採れたもののみ。自ら在来種の蕎麦の栽培にも取り組んでいます。後を継いでから、そばつゆに使用する調味料も天然素材に見直すなど、変化を恐れずに行動を起こしています。

「蕎麦は本当に不思議なもので、毎回必ず違った仕上がりになります」という話がとても印象的でした。

さて、宮野屋を後に、続いて訪れたのは「まつえんどん」さんです。

こちらも雪国A 級グルメ加盟店です。さらに、新潟の恵まれた山海の幸とともに、南魚沼を心ゆくまで味わってほしいという気持ちで南魚沼市が中心となって5年前から活動している「本気丼(マジドン)」プロジェクトにも加盟されています。ご主人の三輪弘和(みわ ひろかず)さんは金沢で料理人として働いていたそうですが、地元に戻ってきて「“ごはんを届ける農家”みわ農園」を立ち上げられました。今は、同じく以前金沢で料理人をされていた奥様がお料理を担当されているとのことです。

お店で提供する料理はすべて添加物などを使わず、お米づくりにおいても自然の肥料を使うなど、人一倍気を遣っているそうです。肉や魚ではなく地元の野菜をメインとした料理は30~50代の女性に大変人気で、連休ともなるとほとんどが県外からのお客さんとのこと。この店舗のほかにも、岩原スキー場近くのリゾートマンションからも声がかかり、玄米を使った無添加ベーグルの販売や、マンション近くの民泊の朝食も作るなど、活動を広げています。この日は通常1,500 円程度の丼を、ハーフサイズでご提供いただきました。ハーフサイズながらも、角煮やお野菜、目玉焼きなどが乗っかり、ボリューム満点。お蕎麦を食べた後でしたが、あっという間に平らげてしまいました。


我々がいただいたメニューのほかにも、たくさんの種類の総菜が食べられるランチバイキングを提供しているそうです。こちらも胃袋に空きがあればいただきたかった…。

さて、次は、お漬物屋「今成漬物店(いまなりつけものてん)」さんへ。「山家漬(やまがづけ)」と呼ばれる粕漬けのお漬物を販売するお店。こちらももちろん、雪国A 級グルメ加盟店です。バスで到着した一行は、三代目店主・今成正子(いまなり まさこ)さんに出迎えていただきました。

到着して早速ご案内いただいたのは、漬物の加工場である、蔵。薄暗く細長い道を通っていき、木樽が何個も並んでいる蔵に到着すると、酒粕と木樽のなんともいえない香りがぷーんと漂ってきました。通年で一定の温度、湿度が保たれる蔵の特性を生かし、また、目に見えない今成漬物店ならではの粕菌が住み着いたこの蔵で、創業以来変わらない手法で作られている山家漬。まさに仕込み最中の樽を前に、作り方についてご説明いただきました。酒粕の色は茶色に変色していましたが「おいしそう!」というメンバーのリクエストに応えていただき、なめさせていただくと、これ自体が調味料ともいえる旨味が味わえました。


蔵を見学した後は今成家の2階で試食をさせていただくことに。昔ながらの歴史を感じさせる建物で、窓から見える遠くの山々の景色に、一同感嘆。そんな中、今成さんの娘さんに入れていただくお茶と共に、山家漬をいただきました。越瓜、錦糸瓜、きゅうり、なす、わらびなど、地元魚沼や契約農家から購入されているお野菜を、地元の名酒「八海山」の純米吟醸の酒粕で漬けた、贅沢なお漬物。中でも錦糸瓜は人気で、我々が訪問した際にはすでに完売しており、我々のために試食品を取っておいてくれたとのことでした。実際に、食べてみると錦糸のように、口の中でサクサクと瓜がほぐれていき、これまで食べたことのない食感で、もう一度ご飯が食べたくなりました。


南魚沼の遠くの山々からの涼しい風を受け、今成さんのお話を伺いながら食べる山家漬は、ただの漬物とは言い難い価値として実感することができました。

今成漬物店を出発した一行は、本日の宿の「和風いん越路(こしじ)」さんへ。
スキー客がメインの、家族で経営されている民宿。こちらも雪国A 級グルメ加盟店です。チェックイン後、夕食をいただきましたが、「民宿」のイメージを覆されるような料理のレパートリーです。地元でよく食べられるという伝統料理「からしなます」や、地元の旬の野菜をふんだんに使用した目にも楽しい料理が、旅館の娘さんの説明付きで次々と運ばれてきました。その料理の担当は、息子・幹雄さん。元々はホテルで接客を担当していたそうですが、地元に帰りたい気持ちがあり、HATAGO井仙(越後湯沢駅前・雪国A 級グルメ加盟店の宿泊施設)で修行し、その後ホテルへの転職を経て、越路に戻り10 年になるそうです。

実は幹雄さんは、雪国A級グルメに加盟する時、冷凍野菜は使わないと決めたとのこと。すべて手作りというだけで喜んでくれるお客さんも多く、最近では地元の女性たちが料理を食べに来てくれるようになったのが嬉しいと話します。ちなみに、この日の夕食の野菜は、レンコン以外は自家の畑(お母さんが担当)でとれたものを使い、レンコンも千葉の知り合いから提供していただいたものだそうです。

近くにスキー場があるので、スキーシーズン最盛期には近くの民宿や旅館もほぼいっぱい。和風いん越路ではリピーターさんやネットでの予約を中心にし、旅行代理店によるパックツアーの話はお断りしているそうです。しかし、「シーズン中に他の宿が満室なのに、うちにはお客さんが少ないと心が折れることもある」…という、家族経営ならではのご苦労も率直にお話しいただきました。そんな中でも、心を込めた料理にこだわっているからこそ、スキーシーズンでない夏でもリピーターを獲得したり、地元のお客さんが来たりと、他の宿とは一線を画しているのです。


夕食後は交流会に移行。1日目の気づきや感想をメンバー1人1人から発表しました。岩佐氏からは、改めて旅行の決め手についての問いが投げかけられました。お客さんは、そこにある飲食店1軒のために来るのではなく、「その地域に行ったら楽しそう」だから来るのではないか。飲食店、宿泊施設、お土産屋さん等が連携する必要性についてお話しいただきました。

翌日の朝はもみ殻を燃料にして羽釜で炊いた、お父さん特製のご飯をごちそうに。朝食は焼き鮭にサラダ、納豆にお漬物といったおかずと共にいいただく、羽釜で炊いたピカピカのご飯に、箸が進む、進む。普段はおかわりしないのに2 杯目もぺろりといただきました。


建物のメンテナンスは建築士であるお父さんが行い、畑での野菜づくりはお母さんが行い、接客や経理をお姉さんが行い、料理を幹雄さんが行う。「家族経営だから、皆んなが役割をもっている。誰か倒れたら大変」(幹雄さん)というように、家族で支えあっている、和風いん越路。料理のおいしさだけではなく、家族の温かさが接客にも現れていて、もう一度、いや何度でも行ってみたいと思わせてくれる民宿でした。

和風いん越路を出発した一行が次に訪れたのは、自遊人が経営する「里山十帖(さとやまじゅうじょう)」にも野菜を提供している生産者・「上村農園(かみむらのうえん)」の上村一昭(かみむら かずあき)(通称合鴨ごんべえ)さん。合鴨農法で有機米としてJAS 認定を受けている生産者です。

ごんべえさんのお米は通常より高額で取り引きされており、高島屋などの百貨店にも販売しているそうです。それには理由があり、カモやその餌、田んぼや畑の肥料、農業資材等の必要な経費を考えると、相応の額に設定しないと成り立たないそうです。ただ、その分手間をかけるため、生産量が限られる(だから高くしないといけない)…。

「野菜の場合、通常のレストランだと、安定供給を求められるので、量を多くつくる必要があるが、安定供給できない場合もある。その点、里山十帖では、その日に持っていった野菜を見てから、料理を考えるといったように臨機応変に対応してもらえる。売り上げにも結びつくから、嬉しい。大きさや規格外なども関係なく使ってもらえるのはありがたい」とお話していました。こちらでは、「雪国A 級グルメ」ならではの生産者(つくる人)と、宿泊施設(使う人)のリアルで密な関係の必然性を教えていただくことができました。

ごんべえさんを後に、1 泊2 日の雪国A 級グルメツアーのフィナーレは、自遊人が経営する宿「里山十帖」です。

到着して早々に、エントランスに登場した、巨大な木の切り株。その他にも吹き抜けの2階にある休憩所や、アーティストの作品などにメンバーは圧倒されっぱなし。また、岩佐氏が「宿はリアルメディア」と言うように、宿で実際に使用されている家具や小物類などが購入できるコーナーなども視察させてもらいました。

一通り館内を見回った後は、里山十帖のレストラン「早苗饗(さなぶり)」にて、ランチコースを堪能しました。近くの野山で朝に採ってきたという食べられる木の実がそのままテーブル上に提供されたり、ほおづきを箸置きにしたり、「野菜のおだし」が御猪口で出てきたり…、一同その演出に大興奮です。どの料理も野菜がメインで、お肉は「野菜の付け合わせ」として少量の提供ということにも、皆さん驚いていました。


スタッフが「当館のメインディッシュ」とプレゼンするご飯については、通称「ご飯のアルデンテ」と呼ばれる「煮えばな」をいただきました。

「早く食べないと固くなってしまうので、よそったらすぐに召し上がってください」。メンバーは言われたままにご飯を頂き、初体験のお米の食べ方とその食感にまたテンションが上がります。お酒を飲めるメンバーは地元ならではの日本酒をはじめ、地元産ワインや、さらにはみりんまでもペアリングとしていただきました。

季節のデザート(器に丸ごとの柿の実を使ったアイス)まで堪能した後、早苗饗のシェフ・桑木野恵子(くわきの けいこ)さんに来ていただき、料理についてご説明いただきました。約50もの生産者から直接仕入れており、それぞれの生産者の畑などを訪問し、直接食材を見て、味わったうえで購入していることや、持ってきていただいた旬の野菜等を、大きさや規格にこだわらずできる限りそのまま使っていること、当初里山十帖ができたばかりの時には、「地元のものを使うこと」を岩佐氏から厳しく言われ、「大根と人参しかない」と途方に暮れたことなど、包み隠さずお話しいただきました。

その後、ツアーの集大成として、この1 泊2 日の活動を終え、どのようにメンバーが感じたのか、また活かしていこうと思うのか等、メンバー同士熱く語りあいました。

あっという間に終了した、雪国A 級グルメ視察ツアー。「生産者との顔が見える関係性」、すなわち食材の提供ルートが明確であること。生産者が実践されていることを信頼し、値段の安さではなく、食べてみたおいしさや作り方を「価値」として、言い値で購入し、それをお客様に最適な情報や演出と共に提供すること。家族経営ならではの接客を通じてリピーターになってもらうこと。そして、その土地の暮らしや営みを大切にした料理を提供することなど、様々な学びを得ることができた1 泊2 日でした。

「また来たい」というメンバーの声があがるほど、有意義なツアーとなりましたが、この経験を自分たちの店舗や地域でどう活かしていくのか、今後のメンバーの活動こそが重要です。それを事務局も追っていきたいと思います。