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第3回ワーキンググループ
「食は野に聴け、海に聴け」職人館 北沢正和さんを招いて

茨城県北ガストロノミープロジェクト、第3回ワーキンググループは、長野県佐久市にある、『職人館』館主、北沢正和(きたざわ まさかず)さんにお越しいただき、講演と料理教室を実施しました。料理だけでなく、人生においても勉強になるお話でしたので、できるだけ余すとこなくお伝えしたいと思います。

長野県佐久市『職人館』 館主 北沢正和さん

第1部 講演 『食は野に聴け、海に聴け!』

料理人の視線で

皆さん、こんにちは。(私は)トップシェフの皆さんとたまたまご縁があっていろんな話をしたりするんだけど、料理関係の皆さんの前でこう言っちゃ悪いんだけど、目指すは「料理人がいらねえ料理」が一番いいんじゃねえかなってことをいつも言ってるんですよ。「料理って何かな?」ってことを考えると、まず、自分が健康でいること。それと、食べてくれるお客さんが健康になるために料理ってあると思うんですよ。人間が手を入れて、料理すればするほど、逆に健康に悪いものになるんじゃないかって…。今、トップシェフが目指しているのは、「なるべく野にあるがままなるをどうやって食べてもらうか」って、だんだんそういった方向に来ていると思うんです。

料理って、ただ皿の上にあるのが料理じゃなくて、居心地のいい空間を地域全体でどうやって作り出すかっていうことの中に、料理もあると思うんです。魅力的な地域は、たとえ小規模でも、自立して、高品質の物をつくって、多様な仕事をしている人たちがいっぱいいて、役割分担できているところが本当の豊かな地域になると思うんです。自分の仕事は徹底的な自立、だけども、何か地域でやるときはみんなが協力する。自立と共存の関係ができる地域が、ものすごく豊かになると思うんです。

例えると、一つの地球という一番大きな大皿があり、その中に地域という中皿があり、さらに、自分の施設の中で料理を出して盛る小皿。この三つの構造があると思うんだよね。そういった目線の中で、自分の小皿は、地球という大きい大皿や地域という中皿とどういうかかわりを持っていたら、来る人も居心地が良かったり、自分も健康で居心地よく生きられるかっていう、そういう目線が大事だと思うんだよね。


食は陸と海との組み合わせ

料理の一番の基本的な視線は、縄文料理と、野の動物にあると思うんですよ。なぜかというと、土と最も関わりがあり、縄文の末期にはもう塩を作っていたから、塩と土が恵んでくれたものだけでも、当時の人は十分に料理して食べてた。それが料理の原点だと思うんです。

縄文時代には、土器があって土を水でこねて器を作った。その器の中に、食べられる山菜や野菜や魚などを入れて、あとは塩だけで土器の回りから火で煮て食べてた。ものを食うっていうことは、全部、土との関わり、海との関わり、その中で初めてものが食える。この二つで生きてるようなものだと思うんですよ。土が育ててくれたものを間接的に食べてるので、本当は土を食らう。だから、土がものすごく大事なんだよね。

野の動物の食べ方を見てると、人間みたいに料理するやつは誰もいねえ。包丁使うやつもいねえ。調味料使うやつもいねえ。野にあるがままなるを食べて、野っぱら元気に跳んで跳ねて歩いている。一番それが原点だと思う。

今人間が、特に日本人の多くの人たちが食べてるものは何かって言うと、いろんな保存料使ったり、添加物をいっぱい入れたり、色んな器具を使って料理して、野にあるがままの姿から遠ざかったものを食べてる。土から離れたものを食いすぎる。食べ物って、土から離れた時間と距離が短いほうがいいと思う。


地上の三界(植物、動物、菌)を読み解けば

料理って、基本的には陸と海の組み合わせだという大まかな目線を持って、そのバランス感覚をどうやって磨くかっていうことが大事だと思うんだよね。

地球の上を見ると、食えるものって『三界』なんだよね。野菜とか海藻とかの植物界、牛、豚、魚とかの動物界、そしてきのことかの菌界。この三界を組み合わせるとうまく食える仕組みになっているんだよね。例えば、日本の一番基本的な出汁。出汁の取り方は三界の組み合わせ。植物界は昆布。動物界はかつお節。菌界は干しシイタケ。意識しなくても、一つの鍋に自然に組み合わせているんだよね。動物界や植物界の者が死ねば、菌界の動きで土や海に還ってそれでまた新たな生命が生まれていく。いろんな発酵食品もぜんぶ菌界の働き。動物界と植物界の橋渡しをする菌界を料理にどうやって生かすかって、これ、ものすごくポイントだと思うね。

料理は目に見えぬ物に気づかいを

今、インスタ映えとか見栄えばっかり気にしちゃうけど、「目に見えないところにどれだけ気を遣うか」ということと、「トータルなバランス感覚」、これ、ものすごく大事なんだよね。一番大事なのは塩。本来なら海のミネラルがいっぱい入ってるものが塩だけど、今の食塩なんかはナトリウム99%でミネラルはほとんど入ってない。今や減塩で「塩6g以下にしろ」とか言ってるけど、ミネラルいっぱいの塩も、ナトリウム99%の塩も、同じ塩1gだよね。あとは砂糖、油。俺んとこの油は菜種油を昔ながらに和紙で濾して絞ってもらったものを使ってるんだけど、そうやって目に見えないところに最も気を遣ってもらいたいんだよね。皿に盛ってしまえば何の調味料や油を使ったってわかんねえけども、感覚のいい、わかる人にはすぐわかっちゃう。どんないい食材使ったって、塩がだめだったら、その悪い塩のレベルにみんな引き落とされちゃう。だから、料理のレベル合わせの感覚って重要なんだよね。

俺んちのお袋は、着物の仕立ての名人だったんだね。俺が、お袋の裁ち板の横にいると、お袋「正和、おめえ着物っつうものはな、裏地見ろ!」ってよく言ってたね。「表がどんないい生地でも、裏地がちゃんとしてねえと、これダメだ」って。裏地が悪けりゃ決して着心地いいものにはならねえし、着た姿も綺麗じゃないんだね。そんなんで、料理も全く同じで、皿の上にどんだけ綺麗に盛り付けてみても、基本になる目に見えねえ調味料に気遣ってなかったら、感覚が研ぎ澄まされている人はすぐ見抜くし、体のためにもよくねえと思うんだよね。そんなんで、やっぱり目に見えねえところにどれだけ気を遣うかって、これが料理にも、何の仕事にもいちばん大事だと思うんですよ。


足元にある物を宝物にする感性を

普段の暮らしでちゃんとしたものに触れる。これものすごく大事だと思うんだよね。普段自分がちゃんとしたものに触れていると、足元にあるお宝を自分で組み合わせて「あら素敵」って感性も育つと思うんだよね。例えば、詩人の谷川俊太郎さんと仕事させてもらったりしてるときに、「どうして素敵なリズムのある詩が次々と紡ぎだせるのか不思議で…」って言うと、「北さん、僕はあいうえおの五十音の表の中から、ただ文字を拾って組み合わせてるだけだ。」って。あいうえおの表なんて、保育園行く子供から見てるよね。でも、その誰もが見ている五十音の表の中から、谷川さんていう人が文字を拾って言葉にすると、素敵な詩になる。

だから、料理では、みんなが踏みつけている雑草、夏なんか畑に行くとものすごく繁茂するスベリヒユなんてあるよね。農家の人から見ると邪魔でしょうがねえんだよね。ところが、食べる側の目線になって見ると、これ、生命力がものすごく強いから、土地のミネラルをものすごく含んでるんだね。いい酸味もあるし。これを、例えば魚でも肉でもちょっと添えるだけで、いいアクセントになるし、体のためにもいいんだよね。あとはスギナ。これも土の中のいいミネラルを吸い尽くすんだね。だから、お茶にして飲んだりすると、体のためにものすごくいいんだよね。そうやって、みんなが邪魔がってるもんでも、雑草だっていえばそうなっちゃうし、自分なりに関わって生かし切れば、逆にとんでもなくいいものになる。だから、足元に誰もが見ている当たり前のものを、自分なりにどうやって組み合わせたら素敵になるかってことなんだよね。

長野県佐久市『職人館』


やがて土、海に返りやすい体質の食は

地球の何億年もの過去から見ると、一人の人間がこの地上に存在する時間なんか、まばたきする瞬間でもねえんだけど、そのまばたきする瞬間でもねえ中で料理して食べたりして、やがて自分も土に還っていく。かつては土や海が恵んでくれたものをそのまんま何の意識もしねえで食べてりゃ、わずかばかり生きて土に還れたんだけど、今、人間は土に還らねえものを作り過ぎちゃったね。食べるものは自分が気をつけなくちゃだめだね。

だって、今くらい防腐剤や添加物の効いたものを、何気なく食べてると、自分の体に防腐剤が効いちゃって、土に還れなくなっちゃうんだよね。そういう点で、料理作る方も、なるべくそういうものを使わねえようにして、自分も含めて食べてくれる人も土に還りやすい体になるようなものを作って、出さなくちゃいけねえと思うんだね。それにはやっぱり普段食べる料理、それから料理人の皆さんが作る料理、地域で生産されるものなど、やがて地域の土や海に同化していくことを考えて、ちゃんとものを作っていくっていうことが大事だと思います。

 

高麗人参 地鶏 紫米の参鶏湯


日本の豆の価値を見直す

日本で豆料理って、これからものすごく大事だと思うんだね。俺は今から、2~30年近く前か、村の中の高齢者のばあちゃんたちに、豆を20種類ほど作ってもらってたんだね。今、豆を誰も評価しねえけど、自分で作った種を今年取っといて、また来年撒ける種なんてほとんどなくなってきてるんだね。ところが、日本の田舎のばあちゃんたちって、自分で作った豆で、また種取っといて、来年撒ける種って結構持ってて、このばあちゃんが死ぬと、残念ながら、そこで途絶えちゃうんだね。村のばあちゃんの豆が、いろんな品種改良しちゃった大種苗会社の種にこれから対抗できるように、そっちの方が価値あるような気がするんだね。日本の地域の豆をちゃんと使うって、料理をやってる皆さんや県や行政も、この豆を日本でもう一回見直してもらいてえんだね。日本くらい豆を豊かに持ってる国ってそうはねえんだね。

村の豆とうふ


そこに魅力的なものがあれば人が来る、田舎の方が面白い

こないだもスペインの売れっ子シェフが、日本で豆料理やりてえとか言って、俺んとこに来てくれた。俺、20種類近くの豆を彼に見せて、それで何種類か料理してやったら、彼もビックリしてた。こないだ軽井沢のレストランの社長がエネコさん呼んで、ひと夏イベントやったんだけど、過去最高の売上になったって。誰も振り向かねえ豆でも、そうやってちゃんと使うと、お客さんはちゃんと遠くからも来てくれるんだね。

地域にある誰も振り向かねえようなもんでも、村のおばあちゃんが作ってるもんでも、関わり方がよけりゃ、ものすごい遠くからでもそれを食べに来てくれる。海外からだってわざわざ食べに来るし。だから、やっぱりこれからあんまり距離の問題とか関係なくて、やっぱりそこに魅力的なものがありゃあ、そこに人が来る。

むしろ、俺、田舎の方が面白れえと思うんだね。だって、さっきの話じゃねえけど、自分が一番その食材に近いところにいるんだから。都市だと食材から離れちゃう。例えば、「エディブルフラワー」を使う花料理なんかブームになってきてるけど、うちのすぐ前の畑から採って、料理の上に花散りばめたりする。東京でイベントやるときなんかに、花を送ってやるのと、自分の畑で採れた花をすぐ散りばめるのとを比べると、東京で次の日に散りばめるのはどこか違うんだね。だから、なるべく食材の近くでやる方が、俺いいと思うんだね。そういう点で俺むしろ田舎っつうのは魅力だと思うんですよ。

 

オーガニック野菜の彩サラダ

そば 二色盛り

以上、職人館 館主 北沢正和さんのお話でした。

第2部 料理教室&ワークショップ

その後、ワーキンググループでは、『食は野に聴け、海に聴け!』を体現した料理を実食。「野」は、『蕎麦粉のスープ』。茨城県北地域産の常陸秋そばの蕎麦粉にお湯を入れて、ほんの少しだけ塩やしょうゆを垂らすだけ。それだけで、蕎麦本来の風味を感じられ、ほっとする味わいがありました。

「常陸秋そばのそば粉」をお湯でといただけのシンプルなスープ

また、「海」は、これまた地元の常磐沖で水揚げされたヒラメを、『縄文風フライパン蒸し焼き』に。作り方はいたってシンプル。さばいたヒラメと地元の野菜やハーブ(白菜やトマト、山椒など)、塩少々をフライパンに入れ、蓋をして弱火でじっくりと煮るだけ。これもほとんど手を加えずに野菜や魚から旨味のスープがあふれ出し、香り付けのハーブがいいアクセントになって、コースで提供されるような料理になっていました。

「常陸沖のヒラメ」の縄文風フライパン蒸し焼き

ワーキンググループの最後には、プロデューサー・岩佐さんの指導のもと、3つのグループに分かれて県北地域が持っている価値を見直し、話し合うワークショップを実施。北沢さんの講義を頭で理解し、舌で実感し、最後に岩佐さんの「引き出し力」により、県北や自分自身の現在を見直すことによって、ワーキンググループの内容を体系的に自分の中に落とし込んでいく時間になったのではないかと思います。
また、他のメンバーとの情報共有や意見交換も貴重な時間。あるメンバーが食材の仕入ルートの悩みを打ち明けると、他のメンバーが自身の仕入先を紹介するという、マッチングも生まれました!

第1回の岩佐氏の講義から始まり、第2回の新潟視察ツアー、そして、この第3回の北沢さんの講義・料理教室&ワークショップ。多くはない回数ながらも、メンバーにとって、密度の濃いワーキンググループになったのではないでしょうか。

茨城県北ガストロノミープロジェクト。今回をもって今年度のワーキンググループは終了となりました。ご参加された事業者の皆様、お疲れさまでした。ワーキンググループでの学びを踏まえて、これから「茨城県北ガストロノミーコンペティション」、「茨城県北ガストロノミーツアー」と、活動はまだまだ続いていきます。

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