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休館中の美術館で実現。ガストロノミー・フュージョンディナー(前編)

茨城県北地域で育まれてきた、自然・文化・歴史・空間など風土の魅力全てを融合させて再編し、「一皿の料理」に込めて皆様にお届けする活動、「茨城県北ガストロノミー」。
3年目を迎える2020年は、県北地域への誘客促進と認知度向上を念頭に置き、様々な活動を行っていく予定でしたが・・・。

コロナウイルス感染拡大の影響があり、本格的にプロジェクトが動き始めたのは7月後半からでした。

そんな中、「地域を盛り上げる試みなら」と、工事休館中ではありましたが、茨城県天心記念五浦美術館の協力を得ることができ、岡倉天心(以下、天心)の『茶の本』をコンセプトとした「一夜限り」のディナーイベントを実施することに。それに向けて料理人たちは急ピッチで準備をしてきました。

「ニューノーマル」と言われるように、宿泊事業も含めた外食産業は、今後「コロナウイルス感染対策」「ソーシャルディスタンス」といったことを念頭に置いていかなければなりません。
もちろん、当初予定の誘客促進と認知度の向上も・・・。

これら複合的な要素を1つのイベントで実現したのが、今回の「岡倉天心『茶の本』fusion DINNER」。

本イベントにより、今後の新たなる茨城県北ガストロノミーの展開が見えてきました。

 

 

岡倉天心を感じるべく、六角堂(茨城大学五浦美術文化研究所)へ

イベント当日の14時。ゲスト20名は磯原駅に到着。バスに乗り込み、五浦六角堂へ。途中、磯原海岸の二ツ島や大津漁港等、県北の海の風景を見ながら、天心が目にしたであろう風景になぞって五浦を目指します。

ゲスト一行は六角堂に到着。門をくぐり、天心が住んでいた旧天心邸へ。そこでは、茨城大学教授、五浦美術文化研究所所長の藤原貞朗先生がゲストの到着を待っておりました。
この五浦六角堂において一行は、藤原先生から天心に纏わる話を聞き、天心の世界観を感じ、ディナーに向けて造詣を深めていきました。

一行は藤原先生と共に、天心の墓~資料館~六角堂~母屋(旧天心邸)というルートで話を聞きながら散策します。

天心は、日本画改革運動や古美術品の保存、東京美術学校の創立、ボストン美術館中国・日本美術部長就任、また、自筆の英文著作『The Book of Tea(茶の本)』などを通して、東洋や日本の美術・文化を欧米に積極的に紹介するなど、国際的な視野に立って活動した人物。一方、東京美術学校でのスキャンダルで失脚し、「都落ち」と言われることも…。しかし藤原先生は、「そうではないのでは」と話します。

それは、「前年、長女の高麗子が結婚して東京を離れるというタイミングでもあり、第二の人生、セカンドライフを妻の基子と田舎でゆっくりと過ごそうという心持ちもあったのでは」というのと、五浦を選んだのは「近くまで列車が開通し、東京へのアクセスもそれほど困難でなく、コンタクトもとれるという立地にあったことも大きいのでは」と…。実際、天心はこの五浦で完全に隠棲した生活をしていたわけではなく、アメリカのボストン美術館での学芸員の仕事が1904年に決まり、半年はボストン、半年は五浦という日本とアメリカを往復する生活をしていました。この五浦で天心は、日々釣りや読書をする一方、六角堂で思索をするなど、空と海を眺め大自然と一体となる生活をおくりました。

こうした、日本とアメリカを往復する「ワーク」をこなしながらも、田舎で釣りや読書を楽しみながら「ライフ」を過ごす天心の生き方は、「Afterコロナ」時代において、都会を離れて地方で生活しながらもテレワークなどによる都会での仕事が可能な生き方が見直されている現在において、天心がこの五浦でどんなことを考えながら最後の十年間を過ごしていたかを追体験することは、とても重要なことのように思えてきます。

 

 

県北由来のウエルカムドリンク&天心が残したオペラ「白狐」

ゲスト一行は美術館へ到着。スロープから、館内へと向かいます。途中、「月魂の池」前ではウエルカムドリンクの提供が。ウエルカムドリンクは常陸太田市の酒蔵「井坂酒造」の古代米を使用した日本酒『古代さけ紫しきぶ』。今回は特別にスパークリングで提供。また、屋外で寒い方向けには、高萩市特産のフルーツほおづきシロップをたっぷり使用した「ホットほおづき」を味わっていただきました。

ウエルカムドリンクがゲストたちにふるまわれる中、サプライズで披露されたのは、なんとオペラコンサート。ソリストは県北・日立市出身の薄井美伽さん、ピアノは地元・北茨城市出身の川村あかりさんです。ゲストは池の前で始まったアリアに驚きながらも、その歌声そして夕暮れ時というシチュエーションに酔いしれておりました。

 

ちなみに今回披露されたオペラコンサートの『眠れあかごよ』、『月の歌』の2曲は、天心の残したオペラ『The White Fox(白狐)』が原作であり、これは日本の『葛の葉伝説』をアレンジした内容で、残念ながらこの直後に天心が逝去したため上演は叶いませんでした。しかし、天心の没後100年の2013年に作曲家平井秀明が翻訳・台本・作曲を行い、その翌年にはロサンゼルスで公演もされております。2020年もニューヨークにて公演予定ではあったのですが、コロナの影響で中止となり、このイベントの開催で世界で唯一披露されることになりました。

 

 

五浦美術館でのディナーの意味と守るべき条件

オペラを聴いたゲストはいよいよディナー会場のエントランスホールへ。一行を待っていたのはオペラよりも更なるサプライズでした。

会場を埋め尽くす赤い絨毯と赤い布をまとった円柱。その中にはテーブル席が設置されています。なんと、この円柱の中でゲストたちはディナーを楽しむという設定としました。それにはいくつかの理由があります。

一つ目は、美術館という場所の条件。絵画などの貴重な美術品に悪影響を及ぼすリスクを極力減らすため、美術館館内では通常、飲食は禁止されております。このため、会場装飾では植物を使用しないこと、飲食物がこぼれるリスクがある部分についてはフロアを絨毯で覆うこと、さらに食事中に万が一ソースなどが飛び散る可能性があっても、覆っている布でその可能性を減らすこととしました。

二つ目は、コロナ対策。一つ一つの席を離し、2名1組での申込という条件を付けたうえでの客席設定。薄手の布もリスクを排除する役割も果たしています。さらには料理を運ぶホールスタッフも、席での説明は行わず、シェフが壇上からプレゼンを皆さんに対して行うというスタイルにしました。

三つ目は五浦美術館という場所で行う意味です。天心は五浦では茶室(六角堂)で思想にふけっておりました。その思想に近づいていただきたいという想いから、その六角堂のベンガラ色にちなんだ赤い布で客席を覆い、茶室に籠って食事をとる設定で食事を楽しんでいただく趣向としました。布はオーガンジー製の薄手で、羽衣のようにちょっとした風でふわっとなびく素材とし、着席しても閉塞感を感じることなくゆったりと食事を楽しんでいただく空間としました。また、建築との親和性にも配慮。円柱に関しては、エントランスの回廊を支えるエンタシスをモチーフにデザイン。24 メートルスパンでトラス状に組まれたプレキャストコンクリートの天井の梁をゲストに見ていただけるよう、上部は開放しました。

以上の配慮がなされた空間設計により生まれた一夜限りのディナー会場。ゲストたちは驚き、そしてこれから始まるディナーにさらに期待感を高めていきました。

 

(後半へ続く→後編はこちら

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