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休館中の美術館で実現。ガストロノミー・フュージョンディナー(後編)

茨城県北地域で育まれてきた、自然・文化・歴史・空間など風土の魅力全てを融合させて再編し、「一皿の料理」に込めて皆様にお届けする活動、「茨城県北ガストロノミー」。
3年目を迎える2020年は、県北地域への誘客促進と認知度向上を念頭に置き、11月6日に開催したのが、岡倉天心『茶の本』をコンセプトとした「一夜限り」のディナーイベント「岡倉天心『茶の本』fusion DINNER」。
ゲストは五浦美術館エントランスホール会場に到着し、念願のディナーを楽しみます。
(前編の記事はこちら

 

六角堂を表現したアミューズ

前菜「六角堂」~県北6市町をイメージして~
(一番上から時計回りに)大子町…奥久慈茄子の鰹衣におひしょ/北茨城市…太刀魚とあん肝のミルフィーユ蒸し/高萩市…高萩フルーツほおずきのフリット/日立市…常陸牛のブレザオラ/常陸太田市…常陸太田けんちんそばの再構築/常陸大宮市…フォアグラの生キャラメルと多田錦柚子チョコレート

さて、各々の席へ案内されたゲストたちへ最初に提供された料理は、県北の6市町の食材を活用し、六角堂をイメージした前菜(アミューズ)・その名も「六角堂」。

アミューズ=プロローグ。一つ一つの小さな料理に注目してもらい、ハッと驚き、舌で味わい、これから繰り広げられるディナーを作るのはどんな料理人なのか、集中して想像を巡らせてもらう時間を演出したい…。その一心でクリエイティブディレクター田中孝幸氏とシェフたちが考案した一皿。五浦六角堂、天心邸から五浦海岸をツアーで眺めたゲストは、このアミューズが何を意味するのか、理解いただけたことでしょう。

食事にはアルコール・ノンアルコールドリンクのペアリング付き。前菜~最後締めの一品まで、アルコールはクチーナノルドいばらきの渡邊オーナーが、ノンアルコールは、雪村庵のマダム・藤由香さんが考案。1夜限りの限定ゲストのために深夜まで考案され、この日のために提供されました。

前菜のペアリング、アルコールは、久慈郡大子町・大子ブルワリー「ヴァイツェン」「ラオホ(黒ビール)」。ノンアルコールは、りんご「ふじ」× 奥久慈りんごサイダー× 白ぶどうビネガー。どちらも茨城県北地域ならではの素材・酒蔵(ブルワリー)とのコラボレーションです。壇上からはお二人のプレゼンが展開されました。

さあ、前菜は終わり、次からはシェフの渾身の料理&プレゼンがはじまります。

 

御椀 椀の三段階~海と山と己との出会い~ 小林康昭シェフ(山田屋旅館)

前菜の後に登場するのは、御椀。山田屋旅館・小林康昭シェフの一皿です。

御椀の食材は、つぶ貝真薯、六角堂人参、たもぎ茸、花びら茸、印元豆、白髪葱、満月柚子、昆布と鰹出汁。

岡倉天心が思想にふけた五浦海岸の景色からの着想を基に、お盆の右側には、茨城県北の海の景色、左側には山の景色を表現しています。壇上から、小林シェフはゲストの皆様へ語り掛けます。

「夕方に散策された五浦海岸を思い出して下さい。時刻はちょうど今頃でしょうか…

お盆の左上には月明かりが。お椀の蓋には夜露が降り、蓋を開けると、そこは五浦海岸。

お出汁には磯の香り、右手前には六角堂人参、その左には苔に生えたキノコに似せた「たもぎたけ」、海藻に見立てた「花びらたけ」。奥には、つぶ貝真薯、その上には水平線に見立てた印元豆、その上には雲に見立てた白髪葱、そして、うす雲から顔をのぞく満月柚子。

六角堂にて満月を愛でながら様々な思想にふけた天心の精神に寄り添って頂く椀物になっております。

お召し上がり頂いた後は、つぶ貝の殻を手に取って頂き、耳元に近づけてみてください。六角堂から見た美しい景色、そして波の音が聴こえてきませんか?

今まさに、この瞬間、茨城県北の美しい海と山に出会い、そして今の己(自分)と出会っていただけたら幸いでございます。

この後も、素晴らしいお料理に出会えると思います。どうぞごゆっくりお愉しみください。お時間いただきましてありがとうございました。」

まだ、フュージョンディナーの序章は始まったばかりです。これからディナーは盛り上がっていきます。

 

野菜料理 常陸の秋の散歩道 原田広美シェフ(うのしまヴィラ)

御椀の次は、野菜料理。担当するのは、うのしまヴィラ・原田広美シェフです。

食材は、毛ガニと常陸野菜たち。椎茸、蓮根、栗、薩摩芋、牛蒡、蕪、銀杏(大久保鹿嶋神社)。

シェフのプレゼンの前に、本日の司会進行、うのしまヴィラ館主・原田実能さんから「彼女…時々人前で話すときに小さな声になりがちです。みなさま耳を澄ませて話をお聞きください。(笑)」といった、ご主人ならではの表現で紹介すると、その言葉通り、広美シェフは丁寧な言葉でプレゼンされました。

「このフュージョンディナーの中での、私の役目や立ち位置をまず確かめました。椀物からメインのお魚料理とお肉料理へと、お客さまの思いとおなかをつなげていくお役目、それはまさに「茶道」でいうところの、「待合」からお客さまを「茶室」にご案内する途中にある、「路地」(ろじ)と呼ばれる小道のようなお役目だと感じました。主人がお茶の先生の家に連れて行ってくれて、お茶を体験し、路地をみてきました。そこには小さいけれど、歩く人の心をさそう広い世界があることも感じました。それをお料理に表現してみました。」

お野菜のペアリング、アルコールは、常陸太田市・岡部合名会社松盛「純米吟醸無濾過生原酒」。米の香りと旨味がしっかりと表現されているこのお酒は様々な野菜の持つ甘み・苦味・風味をがっちりと受け止めています。お料理もいろんな味わいの詰め合わせのように楽しめるお皿ですが、特に椎茸に蟹を詰めた一品との相性がよく、椎茸・蟹みその旨味をこのお酒のほんのりとした甘みが包み込んでいます。

ノンアルコールは、常陸青龍×レモングラス×コブミカン。常陸太田市オリジナル品種のぶどう「常陸青龍」。酸味や渋みが少ないことから、武藤観光農園の常陸青龍のジュースをベースに、香りを大切に抽出し、エキゾチックにアレンジ。グラスの上に潜んでいるのは、柴田農園の「オキザリス」。花言葉は「輝く心」。2020年は、世界中に色々なことがありましたが、輝く未来であってほしい。そんな願いを込めて作られたドリンクです。

料理そのものだけでなく、器に至っても「路地」の役割を果たしている、そんなお料理&ペアリングが展開されました。

 

魚料理 波の音 佐藤協壱シェフ(クチーナノルドいばらき)

さあ、「路地」から、いよいよ「メインストリート」へ。メインの魚料理は、クチーナノルドいばらき・佐藤協壱シェフがご担当されました。

お皿には、北茨城漁港産鮮魚のフリット、久慈浜産伊勢海老とアワビのコンフィが盛り付けられます。自家製の里川カボチャのフォカッチャと併せてゲストたちに提供されました。

4品目ということもあり、『茶の本』第4章・茶室の着想を基に、佐藤シェフからプレゼンが展開されました。

「西洋建築と日本建築の違いから述べられているこの章は西洋とは全くちがう日本の微妙な美しさ。天心の根幹でもある不完全の美へつながる思想も感じ取れる…。

茶室は数寄屋造りで静寂と和らいだ光。すべてのものが落ち着いた色合いを持っていると考えられる侘び寂びの世界・・・。それをともすれば相反する西洋料理をお皿の上にどう表現するか。天心の静の部分と人となりである動の部分、相反する部分を同時に表現できないかと考えました。

静寂の中、自分と向き合う六角堂で天心の耳に入ってきた五浦海岸の波の音、釣りが大好きで地元の名人に手ほどきをうけるほど熱中し、五浦に愛着をもった暮らしぶりを一緒に表現できないか-。

太平洋を臨む茨城の豊かな海の幸と茶室の繊細な日本建築美、西洋の芸術と日本の芸術、様々なエッセンスを閉じ込めてみようと考えました。

北茨城の鮮魚・アカムツをフリット、久慈浜産の伊勢海老・アワビをじっくりと3時間かけてコンフィ。大漁をイメージし、贅沢に船に見立てて成型したパートブリックの中に。伊勢海老の繊細かつ濃厚なソースで召し上がっていただくことにしました。

茶の世界では花は路地から向かう茶室にただ一つ、ということから上にノルド自家製・桜の塩漬けを一輪。日立が桜の街であることから、県北ガストロノミーへの思いも込めました。

フォカッチャは県北里美地区の在来種である『里川カボチャ』を使い焼き上げました。伊勢海老のソースと一緒にお召し上がりください。」

 

アカムツ、伊勢海老、アワビ…贅沢であり新鮮な県北の食材を、この一皿に。佐藤シェフの渾身の料理がゲストたちにふるまわれました。

魚料理のペアリング、アルコールは、日立市・椎名酒造店富久心「蔵なま」。バランスが良くすっきりとした味わいながら後半にその味わいが膨らんでくるこのお酒には3種の魚介のどれを合わせてもマッチします。3種の中では特に伊勢海老の上品な旨味との相性がよいでしょう。

ノンアルコールは、小室園の手もみ茶を自家製焙煎しました。昔ながらの手もみ茶を日々研究し、追求している小室園は、2017 年に世界緑茶コンテストで最高金賞、その他、多くの賞を受賞しました。そんな真心こめた輝かしいお茶に、雪村庵マダムが自家製焙煎をチャレンジしました。

 

肉料理 シンクロニシティ~意味のある偶然の一致~ 藤 良樹シェフ(雪村庵)

さあ、メイン料理のもう一品、肉料理。雪村庵・藤良樹シェフが担当されました。お皿中心には、奥久慈軍鶏のバロティーヌ。地元香茸のソース、軍鶏のレバームース、卵黄のソースが添えられ、最後に飾り付けで花びらが散りばめられた一皿です。

『茶の本』「芸術鑑賞に関しては 共感にあり」の一節から着想を得たと、藤シェフからのプレゼンが披露されました。

「美術家は共感を伝える方法を心得なければいけない。鑑賞者は共感を受ける態度を 作らなければいけない。双方に何か、共感に関する作品をお互いに感じ取る事で新たに生まれる作品もあるのではないか? と思いこの料理を作りました。

料理は、奥久慈軍鶏のバロティーヌ、天然香茸のソース。奥久慈軍鶏のモモ肉、胸肉、皮、卵など、丸ごと一羽を使用し丁寧に調理致しました。ソースは常陸大宮市の天然香茸を使用した自家製ソースです。肉質が柔らかく、ジューシーに仕上げました。茨城県北のブランド奥久慈軍鶏を是非、お楽しみ下さいませ。」

県北ならではの食材をふんだんに使用したメインディッシュは、ゲストの顔を自然に笑顔にさせました。

肉料理のペアリング、アルコールは、常陸太田市・井坂酒造店日の出鶴「純米酒」の燗酒です。この肉料理は軍鶏の美味しさを堪能できるうえに様々なソースや付け合わせとの組み合わせを楽しめます。完成度が高いだけでなく好奇心を刺激される一品には、いろいろな味わいを受け止める懐の深いこのお酒がよく合います。さらに燗をすることで、ナッツのような香りが加わり余韻も長くなります。軍鶏の噛むほどに引き出される味の深みとの着地点が見事に一致します。

ノンアルコールは、「なつはぜ果汁×シナモン×黒胡椒」。なつはぜは、ブルーベリーよりも小さな黒紫色の実です。昔、大子町の山奥で遊ぶ子供達のおやつとして食べられていました。無農薬で育てるなつはぜの実は、磨けば光る、黒い真珠のよう…。さらに、シナモンと黒胡椒で煮出して、“スパイシー感”を出してみました。香りはフランス・アルザス地方のホットワインのイメージで提供されました。

 

御飯 花びらのどぶ汁雑炊リゾット 前田賢一シェフ(太信)

ゲストの胃袋はもうパンク寸前…。しかしまだまだ終わりません。食事の最後の締めは、「御飯」。あんこう鍋のどぶ汁から雑炊を作るのを基に、リゾット風にアレンジをされた一品です。大津港産のあんこうと、あんこうの真空フライチップを使用した、あんこう尽くしの一品を、あんこうのプロフェッショナル、地元北茨城の太信・前田賢一シェフが仕立てました。 

「リゾットの上には、茶の本から茶の葉っぱをイメージした真空フライ製法で作った、チップ状にしたあんこうの身を葉っぱに見立て、天にまっすぐ伸ばす、意味で立てて飾りました。

まっすぐ立てることで、このガストロノミーの思想を、この県北から発信できればと思い、アンテナの意味を踏まえて立ててみました。

リゾットの中には、べっ甲卵と言って、温泉卵の黄身の部分を西京漬けにした、コクのある黄身の味噌漬けを入れました。これによって、あん肝がちょっと苦手な方も、まろやかさと味噌の甘味で和らげることになります。

このあんこうは、私が大津港の魚市場で前日に競り落とした、大津港産のあんこうになります。これからも、地元の魚を使った料理で皆様をもてなしたいと思いますので、今日は存分に味わっていただけたらと思います。」

あんこうリゾットのペアリング、アルコールは、日立市・椎名酒造店富久心「大吟醸」。和の出汁で炊いたリゾット風のこのお米料理は丸みのある味わいながら濃密な香りがあります。飲み口がスムースながらやさしい旨味と緻密な味わいがあり、ほんのりとしたヨード香(海苔のような海系の香り)の残るこのお酒がとてもよく合います。料理とお酒の個性が重なり合う良い相性です。

ノンアルコールは、「大子産米サイダー×柚子×ローズマリー」。大子町のお米を使用したサイダー。「ぺアリングを造っているなかで、一番難しく、何度も何度も、失敗をし、試行錯誤したドリンク」とのことです。「柚子×お米×鮟鱇(あんこう)の相性がいいかも」と閃いて、常陸大宮市の柚子を使用。香り付けは、柴田農園の「ローズマリー」で鮟鱇のお魚とマッチングさせました。本日の茨城県北ガストロノミー、『岡倉天心「茶の本」fusion Dinner』を、素敵な思い出の1 ページとして持ち帰っていただけますように…とのことで作られました。

 

fusionデザート 雪 (雪村庵&クチーナノルドいばらき)

コース料理のデザートは雪村庵・藤シェフとクチーナノルドいばらき・佐藤シェフの共同合作です。その名も「雪」。奥久慈大子リンゴのミルフィーユに、里美ヨーグルトと十王町の日本蜜蜂のジェラートを散らしたものです。ジェラートは液体窒素で雪を表現されました。

 

お茶の御供 娘来たの餡子トリュフ (うのしまヴィラ)

さあ、コース料理もいよいよお茶でフィナーレです。常陸太田在来小豆「娘来た」をふんだんに使用した「娘来たの餡子トリュフ」お茶と共に提供されました。

「娘来た」とは、皮がやわらかくすぐ煮えるので、嫁に行った娘が里帰りしてから準備してもおいしく食べられることから「娘来た」と名付けられたといわれています。

お茶は、大子町の高見園の新茶、その名も「コンサート」。天心も六角堂で抹茶をいただいたのか…。そこまではわかりませんが、ゲストたちは各々の「茶室」でお茶をいただき、料理の余韻にふけります。

 

約2時間半にわたり繰り広げられたガストロノミー・フュージョンディナー。最後にシェフたちがそれぞれの席へご挨拶に伺います。ゲストからの感謝の言葉と、シェフからはプレゼンでは足りなかった料理の説明と…。時間がいくらあっても足りません。

本来であれば1人1人に説明をしながら食事を提供したいところでしたが、「コロナウイルス感染拡大防止」のためのソーシャルディスタンスといった命題もあった、今回のフュージョンディナー。こういったイベントを開催する上での一つの指針にもなったのではないでしょうか。

【今回参加店舗・シェフ】※敬称略
日立市「うのしまヴィラ」原田広美
日立市「クチーナ ノルド いばらき」佐藤協壱
常陸大宮市「雪村庵」藤 良樹
常陸太田市「山田屋旅館」小林康昭
北茨城市「太信」前田賢一

クリエイティブディレクター・空間演出 田中孝幸
アートディレクション 深瀬美帆
映像撮影・編集 大堀力
撮影 岩佐十良(自遊人)・佐藤和恵

プロデュース 日本経済広告社

協力 茨城県天心記念五浦美術館
主催 茨城県
共催 茨城県教育委員会

本イベントの模様のコンセプトムービーはこちら

(前編の記事はこちら

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